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dr394
4月1日、Poisson d'avril。お魚の日

 グランド・ピアノの周りに朱に塗った板をめぐらせてカウンターに仕立てた、
ときけば趣味が良いと思うだろうか。その天板の上にはむしりとられた赤いバ
ラの花びらにスプレーで滴の演出がされていて、鱗のおおきな魚とともに壁に
おおきく描かれた半裸の女性と同じように肉感的なシャンソン嬢が、少しはず
れた調子でうたっている。日本語のリズムがメロディラインとそぐわないのは
きっとご愛敬。ひとつ曲がおわるたびに僕はお愛想で手をたたく。奥からは合
コンらしき学生たちの一気呑みの囃し声と拍手が聞こえてくるけれど、慣れた
様子で気にもとめていない。シャンソン嬢というより、店のマダアムとでも呼
ぶべきか。鯰のように大きな口でにっと笑う。
 これじゃゆっくり話もできないし場所を変えようか、と言い出したのは僕だ
ったのか彼女だったのか。二人ともまあ悪くない肴と強い酒とでそれなりに酔
っていた。はじめての彼女の前で格好をつけたくて、ちょっと化粧をなおして
くるねと席を立っているあいだに支払いをすませ、グラスに残った酒をちびち
びと舐めて待つ。僕の後ろからついてきた彼女が店の人の前でバッグに手をか
けた時に、もうお済みですから、と言っているのを後目にさっと外にでると、
春らしからぬ冷気にちょっとばかり酔いがひく。ごめん、次は私が奢るからも
う一軒どう。きっとどちらにとってもお望みの通りの展開。
 はじめての店だけど、とためらいながら入った店の、一番奥の大きな窓際の
止まり木に二人ならんですわると、何種類もの洋酒が丁寧に拭われた棚に並べ
られているのが目に入る。僕はサファイアベースでジントニックを、彼女には
血塗れのメアリーを。それを飲み干したあと彼女はりんごの蒸留酒を所望する。
カルバドスは置いてあるの、と訊いた僕に、バーテンダーは笑ってこたえる。
お二人の目の前の棚の2本だけですね。こちらは36年もののビンテージで、
こちらはかなり若い、どちらにしますか。彼女は甘いのがいいという。
 氷をピックでまん丸に削るのは大層技術がいるのだときいたことがある。飴
色の液体の中で揺れるたびに硬質の音をたてながら運ばれてきたグラスに彼女
が口をつける。あら、あまり美味しくないわ。僕は女王様に傅く家令のように
うやうやしく、けれどとても断定的に彼女のグラスを取り上げて僕がいただく
ことにする。まだ若くてどこか険の残ったわずかな渋みを残した甘めのカルバ
ドスを、氷の音を愉しみながら口に含み、愉悦の笑みを浮かべる。
 花のような果実のような、との曖昧なオーダーでできあがったトールグラス
のカクテルは、淡い色をしていて小さなオレンジ色のバラの花びらが載せてあ
って、その味に彼女は満足したようだ。ライチのリキュールを使ったというそ
の酒の名前をきくとオリジナルのカクテルなのだという。酔っぱらいならばこ
れ幸いと彼女にささげてカクテルに情熱を命名するのだろうけど、あいにくそ
こまで酒には酔っちゃいない。互いのグラスを交換しあったり、二の腕に肩の
体温を感じたり、互いの恋愛話をうち明けたり、二人の視線が交差したり。夜
もだいぶ更けたせいかは知らないが、酸素の不足した水槽の中の金魚のように
他の客達はいつのまにかいなくなっていた。
 はじめてのキスで舌を入れてきたからびっくりしちゃった、フレンチは私も
嫌いじゃないから良いんだけどね。そんな会話は、川沿いの部屋で魚になった
あと。目覚まし代わりの携帯の振動で目をあけて、共犯者のシンパシーで視線
を交わしたあと。それからふたり身支度をして、それぞれの待つ人の元へ帰っ
ていく。小さくて赤くてぴちぴちと泳ぐ魚のような、一見罪のなさそうな嘘を
それぞれの胸に抱えながら、二人で二台のタクシーをつかまえて全く異なる方
向へと帰っていくのだ。

(2004.04.01)
# by shinakaji | 2004-07-22 00:05 | fiction
テスト投稿

テスト投稿_b0000750_19501152.jpg
暑いですね。


おとこもすなるにきというものを、ではなくって、ブログってやつをちょっと使ってみようかな、と思ったのでした。ブログ?ええっ?なにそれ、ウェブログでいいじゃん、なんでそんな自己満なことば使うかなあ、まあいいけどね。

いろいろ設定してみて思ったんだけど、ここ(エキサイトブログ)、けっこう使いやすいね。cssやスキンを自分で変えられるし、メニュー部分も要らんものは表示しなくていいし、追加したい部分は「メモ帳」なる部分でhtml書いていいしね。

あとひとつ不満なのは、記事ごとに、それとページトップのロゴ画像の下に、エキサイトIDがいちいち表示されること。これを表示させないか、ニックネームで表示させるかしたいんだけど、いまんところその機能をみつけてないのです。ある程度ウェブサイトの運営になれた人なら、いろんな設定を簡単になおせると思うんだけど、Q&Aとかサポートとかがしっかりしてないのか、単に僕がサポートの場所を見落としているのか、初心者には少し厳しいかも。ま、いったん設置していろいろ設定をなおしてしまえば、あとの運営はラクなんだろうね。

(追記)ページトップのロゴ画像の下のエキサイトIDについては、スキンのソースをいじることで消すことに成功しました。記事ごとのID表示に関しては、ちょっとダメそうなので、諦めましょう。

運営がラクというと、銀塩カメラからデジカメへの移行と似ているね。記事を簡単にポストすることもできるし、簡単に消去することもできる。もちろん、消去できないのはサイト運営上で支障をきたすわけだけど、あんまりにも簡単に消すことができるのはちょっとびっくりした、って感じだよ。

あと、これは目的としている用途に対しての向き不向きの問題なんだろうけれど、ポストした記事に、投稿時刻がくっついて、その部分を編集できないし、記事の順序のコントロールを(投稿する順序に気をつける以外に)する方法がない、ってことかな。

まだ、トラックバックのこととか、いまひとつきちんと理解していないと思うし、コメントの扱いとか既存のBBSとの併用の方法とか、いろいろと問題点は残っているんだけど、まあしばらく使ってみようかな、って感じですわ。
# by shinakaji | 2004-07-21 19:52